三重大学医学部附属病院における前立腺がんに対するPSMA標的治療
― PSMA-PETとPSMA-RLTの診療体制 ―

三重大学医学部附属病院における
前立腺がんに対するPSMA標的治療
― PSMA-PETとPSMA-RLTの診療体制 ―

1.PSMAラジオリガンド治療(PSMA-RLT)について

PSMAラジオリガンド治療(PSMA-RLT)は、前立腺がん細胞に特徴的に高発現するPSMA(Prostate-Specific Membrane Antigen) を標的とした全身放射線治療であり、従来の化学療法・内分泌療法に続く新たな治療選択肢として注目されています。

(1)治療の原理と作用機序

PSMAは前立腺がん細胞で高発現し、正常組織での発現は極めて限られています。この特性を利用し、治療用リガンド(¹⁷⁷Lu標識PSMAリガンド)を体内に投与すると、
PSMAリガンドがPSMA発現病変に高選択的に結合
②結合した部位からβ線(主に0.5〜2 mm程度の飛程)を照射
③がん細胞にDNA二本鎖切断を引き起こし、腫瘍細胞死を誘導
④周囲正常組織への影響は限定的で、比較的良好な安全性プロファイルを示すというメカニズムで作用します。

(2)使用薬剤:¹⁷⁷Lu-PSMA(Pluvicto)

・日本で承認された治療薬はプルヴィクト(¹⁷⁷Lu-PSMA)です。
・β線(治療)とガンマ線(イメージング)が同時に放出されるため、治療と同時に集積状況(post-therapy SPECT)を確認できるという利点があります。
・半減期:6.65日
・腎排泄性
・投与量:7.4 GBqを6週間隔で最大6回

引用元:https://www.pro.novartis.com/jp-ja/products/plulocagagen/pluvicto_document

(3)臨床試験による有効性・安全性エビデンス

前向き試験によって、治療効果・生存延長および安全性が示されています。

VISION試験(NCT03511664:NEJM 2021)
対象ARSIおよびタキサン系化学療法後のmCRPC患者
PSMA-PET陽性であることが条件
結果OS(全生存期間): 15.3か月 vs 11.3か月(標準治療群)
rPFS(画像的な再発までの期間): 8.7か月 vs 3.4か月
PSA反応率(≥50%低下):46%
有害事象:骨髄抑制、悪心、倦怠感、口腔乾燥など(多くは軽度〜中等度)
解釈PSMA-RLTは、既存治療に抵抗性となったmCRPCに対する“新たな標準治療選択肢”として位置付けられる。

PSMAfore試験(NCT04689828:Lancet 2023)
対象タキサン未導入のmCRPC
ARSI治療後
結果rPFS中央値: 12.0か月 vs 5.6か月(標準治療群)
PSA反応率:57%
解釈より早期段階におけるPSMA-RLTの有用性が示唆されています。

(4)適応

  • PSMA陽性の遠隔転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC)
  • PSMA-PETにて治療対象病変が確認されていること
  • 臓器機能が治療に耐えうること(骨髄機能、腎機能など)

(5)治療の位置づけ

ガイドライン(NCCN、EAU など)でも、mCRPCの治療ラインにおける標準治療のひとつとして位置づけられ始めています。ARSI後、化学療法後のラインで特に有用ですが、より早期の段階での有用性が示唆され、PSMA-RLTの適応拡大の期待が高まっています。PSMA集積が明確な症例では高い治療反応性が期待されます。当院では、PSMA-PETからRLT実施まで一貫して評価できる体制により、エビデンスに基づく適正な治療選択を可能としています。

(6)治療の利点

  • 標的選択性が高い(正常組織への影響が比較的少ない)
  • 臨床症状の改善(疼痛軽減など)
  • PSA低下率が高い
  • 画像上の腫瘍縮小効果が確認される例が多い

(7)安全性

代表的な有害事象:

  • 骨髄抑制: 貧血(22.4%)、血小板減少症(13.5%)、白血球減少症(12.3%)、リンパ球減少症(9.2%)、汎血球減少症(1.0%)、骨髄機能不全(0.1%)
    • 口内乾燥(41.1%)
    • 悪心(26.6%)、嘔吐(10.2%)
    • 疲労(35.3%)、食欲減衰(12.9%)
    • 腎機能障害(3.6%)

当院では、腎泌尿器外科・放射線科・看護部が連携し、安全な治療管理体制を整備しています。

2.ご紹介から治療までの流れ

①依頼(紹介医→当院の腎泌尿器外科)
「紹介状」と「PSMA治療用_三重大学への診療情報提供書(下部からダウンロードください)」に、必要な臨床情報をご記載ください。
当院の腎泌尿器外科初診時にて紹介内容を確認し、問診や診察を行った上で、PSMA-RLTの適応について検討します。
▶︎ PSMA治療用_三重大学への診療情報提供書.docx
▶︎ PSMA治療用_三重大学への診療情報提供書.pdf
②画像検査予約
放射線科にてPSMA-PET/CTなどの必要な画像検査の予約を行います。
③PSMA-PET/CT検査等の画像検査の実施
PSMA-PET/CT検査:PSMA発現の有無や程度、全身転移などを評価し、治療適応判定に必要な指標を評価します。
その他、必要に応じて、DWIBS(全身DWI)やCT、骨シンチグラフィを実施します。
④当院カンファレンス(PSMA-RLTユニット・ミーティング)での最終適応判定
腎泌尿器外科、放射線科および必要時に関連診療科が協議し、PSMA-PET/CTを含む画像診断結果や他の臨床情報に基づいて、PSMA-RLTの適応可否を最終判断します。
⑤PSMA-RLTの実施(適応ありの場合)
放射線科にて、核医学治療専用病室の確保、放射性医薬品の到着・準備を含め、投与スケジュールを調整した上で治療を実施します。
⑥治療結果の報告
投与後の経過、検査結果(PSA、画像評価など)を紹介医へ報告します。

3.治療内容

(1)使用薬剤
プルヴィクト®静注(一般名:ルテチウム(177Lu)ビピボチドテトラキセタン)

(2)投与スケジュール
1回7.4GBqを6週間間隔で最大6回投与(治療期間:約8か月)
・患者の骨髄機能・腎機能に応じて減量(必要時)または投与延期

引用元:ノバルティス ファーマ株式会社「適正使用ガイド」

(3)入院と放射線管理
・投与後は体外にγ線が放出されるため、RI管理区域(核医学治療専用病室)に 2泊3日程度入院が必要です
・汗・尿・便などに放射性物質が含まれるため、排泄物の取り扱いには一定の管理が必要。
・退院基準:医療法で定められた放射線量まで低下した後に退院
・退院後も一定期間(3日間〜14週間)、患者・周囲の方に生活上の注意が必要

4.当院の治療体制の特徴

当院では、PSMA-RLTを単独の治療として提供するのではなく、診断・治療・治療後の戦略までを一貫して支える包括的な前立腺がん診療体制を構築しています。これは、大学病院としての専門領域の横断的な連携と、最新の画像診断・治療技術を備えた当院ならではの強みです。

①高精度の画像診断を活用して、高品質の診断とモニタリングを行っています

  • デジタル半導体PET/CTによる高画質PSMA-PET
    当院のPSMA-PETは、最新鋭のデジタル半導体PET/CT(GE社製 OmniLegend 32)を使用します。高感度な撮影が可能で、微小転移の検出能向上が期待されます。当院では、核医学専門技師が撮像プロトコルの最適化と画像品質管理に携わっており、核医学専門医がその診断にあたります。
  • SPECT/CT一体型装置によるPSMA治療モニタリング
    当院では、PSMA-RLT後にSPECT/CT一体型装置によるpost-therapy imagingを実施し、治療薬(¹⁷⁷Lu-PSMA)が実際にどの病変へ、どの程度集積したかを詳細に評価します。
  • 最新のMRI装置を用いたDWIBS(全身MRI)による全身転移評価
    DWIBS(Diffusion-Weighted Whole-body Imaging with Background Suppression)は、骨転移・リンパ節転移を高感度に評価できる全身DWI法であり、PSMA-PETとは異なる生物学的情報を提供します。
    被ばくゼロの全身スクリーニング
    治療前後の細胞密度変化(拡散変化)を評価
    ー PETだけでは捉えにくい情報を補完し、より正確な治療効果判定が可能

②多診療科が協働した包括的治療

  • PSMA-RLTユニット・ミーティング
    PSMA治療の適応、治療計画、治療後の次の治療方針に関しては、以下の複数診療科・部門が参加するカンファレンスで総合的に判断します。

    ー 腎泌尿器外科:前立腺がん治療全般、薬物治療の統括
    ー 放射線科(診断および治療部門): PSMA-PET判読、PSMA-RLT実施
    ー 放射線部: 画像検査、放射線管理
    ー 看護部
    ー 薬剤部
  • PSMA-RLTは治療の一要素であり、mCRPC全体を俯瞰した“治療シークエンスの最適化” が予後改善に重要です。当院では、ユニット・ミーティングでの議論を起点とし、各診療科の専門性を統合して、以下のような包括的治療計画を立案します。
    ー PSMA治療前後の薬物療法(ARSI、化学療法)の最適化
    ー 局所治療(放射線治療・IVR)の併用タイミング
    ー 再燃・進行時の次の治療方針
    ー 全身状態変化に応じた治療調整
    ー 画像評価(PSMA-PET、DWIBS、CT)の統合判断
  • 治療の“前・中・後”の全フェーズを途切れなくサポートできる総合的チーム医療が当院の特徴です。

③転移指向治療(Metastasis-Directed Therapy: MDT)が可能。

  • PSMA-PETやDWIBSにより、オリゴ転移・オリゴ抵抗化病変の精密な把握が可能になっています。当院では、こうした局所進行を示す限局性病変に対し、転移指向治療(Metastasis-Directed Therapy: MDT)を積極的に実施できる体制を備えています。
    ー 高精度放射線治療による局所・転移治療
    ー IVR(経皮的アブレーションにおる内臓転移・骨転移治療)
    ー PSMA-RLTとの併用・シークエンス最適化

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