基礎実験研究
基礎研究・大学院概要
当教室では泌尿器科疾患のうち、前立腺がんと膀胱がんに関する基礎研究を行っております。
前立腺がんの基礎研究について
前立腺がんはヒトの体内で発生する他のがんと比べて非常にユニークな特徴を持っています。
それは男性ホルモン(アンドロゲン)の作用によって増殖や縮小するという、アンドロゲン感受性を持っているということです。アンドロゲンの働きはどのようにして起こるかというとアンドロゲンがアンドロゲン受容体に結合して核内に移行し様々な遺伝子の発現が調節されて起こります。この調節を阻止(ブロック)すると前立腺がんの増殖が妨げられて、有効な治療となり患者様の生命予後が改善されます。このような治療法はアンドロゲン除去療法と呼ばれ、広くベッドサイドにて行われております。
しかし、アンドロゲン除去療法を長期間(1〜3年)行っていると、アンドロゲンをブロックしているにも関わらず増殖を示すがん細胞が現れてきます。アンドロゲンを除去した状態を去勢状態ともいいますので、去勢状態に抵抗性を示した前立腺がんは去勢抵抗性前立腺がんと呼ばれます。去勢抵抗性前立腺がんのがん細胞は前立腺周囲のリンパ節や、離れた部位である骨や肝臓、肺に転移をきたし、患者様は長期間生存することが困難です。我々はこの前立腺がん治療の最重要課題である去勢抵抗性前立腺がん発生、維持メカニズムの解明のため、基礎研究を進めています。
アンドロゲン受容体変異メカニズムの解明
アンドロゲン除去療法下でアンドロゲン受容体の変異が生じるとアンドロゲンが無い、(もしくはごく微量であっても)前立腺がんの増殖を促すシグナルとなってしまうため、去勢抵抗性前立腺がんの発生原因となることが報告されています。我々はアンドロゲン受容体の変異をきたしうる液性因子の同定を目指しています。
そのために、実際の前立腺がん患者様から同意を得てヒト前立腺線維芽細胞を初代培養によって樹立しています。ヒト前立腺線維芽細胞と前立腺がん細胞とを共培養実験や免疫不全マウスを用いた腫瘍形成実験を施行することによって線維芽細胞から産生されうる液性因子の探索を進めています。
アンドロゲン除去療法中の血管内皮細胞ががん細胞に及ぼす影響の研究
ヒト前立腺の組織中には前立腺線維芽細胞、前立腺腺上皮細胞のほかに血管内皮細胞も豊富に存在しています。血管内皮細胞は特殊な条件下において線維芽細胞様に変化することが知られており、我々はこの血管内皮-間葉移行の際に生じる変化が前立腺がん細胞に直接働き、去勢抵抗性獲得の原因になりうるのではないかと仮定し、研究を行っております。
前立腺がん組織を免疫不全マウスに移植しあらたなモデル(異種移植モデル)の確立を行う研究
前立腺がん研究の大きな問題はヒト前立腺がんの実験系が乏しいことです。我々は前立腺がん患者さんから手術標本などから組織をいただき、その組織を免疫不全マウスに移植するモデルの確立を行っています。
膀胱がんの基礎研究について
膀胱がんは前立腺がんより発生頻度はひくいのですが、泌尿器科診療において非常に頻度の高い疾患であり、治療に難渋することが多いです。とくに膀胱の筋層まで浸潤している浸潤性膀胱がんはここ20年以上予後が改善されていません。
浸潤性膀胱がんの標準的治療は化学療法を併用した膀胱全摘除術です。術前に化学療法を先行して行いますが、効果を認めない症例があることが問題です。
浸潤性膀胱がん症例の化学療法に対する反応性を予測する動物実験モデルの樹立
ヒト膀胱がん組織をゼブラフィッシュやマウスに移植し、動物に薬剤を投与して膀胱がん組織への反応性をみる実験系の確立を目指しております。
- 膀胱がん培養細胞を用いたゼブラフィッシュ移植モデルでのシスプラチンの薬効評価系
- ヒト膀胱がん組織を免疫不全マウスに移植して、安定的に継代かつ凍結保存可能なマウスゼノグラフトモデルを樹立しました。この組織をゼブラフィッシュに移植し、シスプラチンの薬効評価を行ったところ、マウスゼノグラフトモデルでのシスプラチン薬効評価と同等の結果を得ています。ゼブラフィッシュはマウスの系に比べ、短期間(1週間 vs 1ヶ月)で評価可能です。
- ヒト膀胱がん組織を経尿道的に採取、これをゼブラフィッシュに移植してシスプラチンの薬効評価が可能になっています。現在、多数例の前向き研究を準備をしています。
研究室の様子
整頓されスペースが十分に確保された実験室にて細胞培養、蛋白抽出、mRNA抽出、各種染色法の実験がいつでも可能です。実験助手さんも勤務されていますので実験のお手伝いを行っていただいております。
当教室では独自に細胞培養室、蛋白解析(ウェスタンブロッティング)、mRNA解析(リアルタイムPCR)、免疫蛍光染色、免疫染色、実験用動物解剖実験室、を施行可能であり三重大学医学部の他部署研究室(総合研究棟共有実験室、三重大学産婦人科、三重大学腫瘍病理部、三重大学医学部薬理学教室)、だけでなく国内では京都大学医学部泌尿器科、またこれまで研究員が留学していた海外の研究室Cedars-Sinai Medical Center (L.A, U.S.)、North Shore Medical School (Chicago, U.S.))との活発な交流も行いつつ研究を進めています。
学会発表について
大学院生としてご自身の手で行い得られた成果を日本泌尿器科学会、泌尿器科分子細胞研究会、など国内学会のみならず国際学会(Society of Basic Urologic Research (SBUR), American Urological Association (AUA))で発表することも可能です。
キャリアパスについて
現在三重大学腎泌尿器外科においては専門医取得後 (卒後臨床研修の2年を修了しその後日本泌尿器科学会指定病院での専攻医としての臨床経験を積んでいただいております。) 希望があれば大学院への進学が可能です。
大学院生として研究を行いながら大学病院、三重大学病院関連病院での臨床を行いますので完全に泌尿器科臨床から離れるわけではありません。泌尿器科領域の基礎研究だけでなく臨床も行える環境の整った当教室を是非一度見に来てください。
これまでの研究成果
教室発表文献をご参照ください。