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造血幹細胞移植学

造血細胞移植研究分野

当科では年間約10 例の患者様に対して造血細胞移植を行っています。移植後には感染症、移植片対宿主病(GVHD)、sinusoidal obstruction syndrome(SOS)など様々な重篤な合併症が待ち受けています。私たちはそれらを制御するため、“bench to bedside”を意識して研究を行っています。以下に当科の代表的なプロジェクト(GVHD)を紹介します。

造血細胞移植後の最も重要な合併症にGVHD があります。急性GVHDは標的臓器と呼ばれる皮膚、肝臓、腸管に生着したドナーの細胞による免疫反応が起ります。その後、慢性期には前記3臓器に加え、口腔、眼、肺、関節、性器など広範囲な臓器障害を引き起こし、移植後のquality of life(QOL) はもちろん、生命的予後に影響を与えます。

1.急性GVHDに関する研究

急性GVHDは、主に移植後100日以内に起こるドナー白血球のレシピエントの器官・組織(皮膚、肝臓、腸管)に対する免疫反応です。その原因としては、移植ドナーとレシピエントの組織適合抗原の違いや移植前処置に伴うレシピエントの抗原提示細胞活性化・腸管細菌叢の破綻が引き金となることが知られている。私たちは、急性GVHD免疫反応予測バイオマーカーの開発、ハプロドナー(母親)時の免疫寛容機序および移植前処置に伴うレシピエント抗原提示細胞(樹状細胞など)の活性を抑制する薬剤スクリーニングなどの研究行っている。中で、臨床的に広く使用されている抗生剤(azithromycin)に、樹状細胞活性抑制作用があり、マウス実験でも急性GVHD予防効果があることを証明した。今後も、同スクリーニング方法を用いて、予防のみでなく、急性GVHD発症後にも有効な薬剤を開拓する研究を行っていく。

論文業績

Efficacy of azithromycin in preventing lethal graft-versus-host disease.
Clin Exp Immunol.2013;171(3):338-45.

The effect of azithromycin on the maturation and function of murine bone marrow-derived dendritic cells.
Clin Exp Immunol.2011;166(3):385-92.

A feasibility study on the prediction of acute graft-vs.-host disease before hematopoietic stem cell transplantation based on fetomaternal tolerance.
Chimerism.2013;4(3):84-6.

Tolerogenic effect of non-inherited maternal antigens in hematopoietic stem cell transplantation.
Front Immunol.2012;3:135

Major and minor histocompatibility antigens to NIMA: Prediction of a tolerogenic NIMA effect.
Chimerism.2011;2(1):23-4.

Prediction of reactivity to noninherited maternal antigen in MHC-mismatched, minor histocompatibility antigen-matched stem cell transplantation in a mouse model.
J Immunol.2010;185(12):7739-45.

Increased Level of IFN-γ and IL-4 Spot-Forming Cells on ELISPOT Assay as Biomarkers for Acute Graft-Versus-Host Disease and Concurrent Infections.
Cells.2012;1(2):61-73.

Discrimination of acute graft-versus-host disease from infections by enumeration of peripheral blood interferon-gamma spot-forming cells.
Transplantation.2006;81(4):632-5.

Prediction of acute graft-versus-host disease and detection of distinct end-organ targets by enumeration of peripheral blood cytokine spot-forming cells.
Transplantation.2005;80(1):58-65.

2.慢性GVHDに関する研究

ドナー白血球の標的は全身の至る所におよび、皮膚硬化症、肝障害、腎炎、肺障害などの臨床症状を呈し、近年の免疫抑制剤開発の進歩をもってしても、現在なお、患者様のQOLを落とす一因となっています。私たちは慢性GVHDの臨床症状が多岐に及ぶため、その診断の一助となるバイオマーカー測定を確立したり、膠原病などの自己免疫疾患に類似していることに着目し、自己免疫疾患を惹起するTh17と慢性GVHDの間に何らかの関連があるものと考え研究を展開しています。

論文業績

High frequency of CD29high intermediate monocytes correlates with the activity of chronic graft-versus-host disease.
Eur J Haematol.2013;91(3):280-2.

Interleukin-10 spot-forming cells as a novel biomarker of chronic graft-versus-host disease.
Haematologica.2013;98(1):41-9.

 

以上、当科で取り組んでいる代表的なプロジェクトを紹介させて頂きました。上記の他に、移植後免疫担当細胞、特にナチュラルキラー(NK)細胞の役割を探究する基礎実験(Neutrophils induced licensing of natural killer cells. Mediators Inflamm. 2015;2015:747680.)も展開しています。このように私たちの研究は、臨床現場から得られる情報を大切に、“bench-to-bedside”を意識しています。しかし、造血細胞移植分野における不明瞭な部分は多く、さらなるプロジェクトの立ち上げを考えています。興味のある方、やってやろうと思われたかた、是非一緒に楽しく実験しましょう!

小児急性骨髄性白血病及び神経芽腫 微小残存細胞(MRD)同定に関わる研究

小児がんの予後は目覚ましく改善する中で、急性骨髄性白血病及び神経芽腫の中には、治療抵抗性あるいは再発を繰り返す症例が存在する。当科では、これらの治療反応性を骨髄内の微小残存病変(MRD)として同定するシステムを樹立し、全国多施設臨床研究として実施しています。MRD同定と予後との相関が得られれば、治療強化すべき群を早期に見分けることができ、これら疾患の予後の改善に繋がるものと期待しています。本研究はまさに”bench-to-bedside“に直結するものであり、是非一緒に研究をしてみませんか?


図)マルチカラーフローサイトメトリー法によるMRD評価 ―AML症例―
論文業績

Fludarabine, cytarabine, granulocyte colony-stimulating factor and idarubicin for relapsed childhood acute myeloid leukemia. Pediatr Int. 2017;59(10):1046-1052.

Relapsed childhood acute myeloid leukemia patient with inversion of chromosome 16 harboring a low FLT3 internal tandem duplication allelic burden and KIT mutations. Pediatr Int. 2016;58(9):905-8.