論文紹介

10年の経過で肝細胞癌を発症した膵頭十二指腸切除後二次性脂肪肝の1例

Clinical Journal of  Gastroenterology誌に掲載された大和浩乃先生の症例報告「A case of steatohepatitis that developed after pancreaticoduodenectomy and progressed rapidly to liver cirrhosis and hepatocellular carcinoma」の日本語要旨です。論文本文は下記リンクより参照ください。

【症例】75歳、男性 【既往歴】虫垂炎手術、前立腺肥大症、膵IPMN 【内服薬】パンクレリパーゼ、ウルソデオキシコール酸、ナフトピジル、ランソプラゾール、モサプリドクエン酸塩、ポラプレジンク 【現病歴】X-1年、腹痛で近医を受診。後日施行されたCT・MRIで膵頭部に35mm大の嚢胞性病変を指摘されたため当院紹介となった。精査の結果、膵IPMN疑いで外科的治療の方針となりX年に亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行、以降当院外科でフォローされていた。X+8年、肝酵素上昇を認めたため消化器肝臓内科受診となった。抗ミトコンドリア抗体陽性よりPBCの可能性もあり原因精査のため肝生検を行うこととした。【当科初診時検査所見】WBC 4870/μL、Hb 13.2g/dL、PLT 8.5万/μL、PT(%) 77.7%、Alb 3.6g/dL、AST 103U/L、ALT 46U/L、ALP 422U/L、γGTP 65U/L、IgG 3094.0mg/dL、IgM 526.0 mg/dL、抗ミトコンドリア抗体 320倍、抗核抗体<40倍 【病理所見】肝小葉内に脂肪滴を認め、Ballooningが随所にみられる。中心静脈周囲線維化、pericellular fibrosis を認める。胆管には異常所見を認めない。FLIP分類:S1A3F4。【経過】肝生検の結果PBCは否定的であり膵術後の二次性脂肪肝による肝硬変と診断し、外来でフォローを継続していた。X+10年、CTで前区域に20mm大の腫瘤が出現し、早期濃染と後期相でのwash outを認め肝細胞癌が疑われた。画像所見が肝細胞癌として典型的であったこと、難治性腹水を伴っていたことから腫瘍生検は実施しなかった。また、胆管空腸吻合後であるためTACEやRFAは胆管炎、肝膿瘍といったリスクが考えられ、放射線治療の方針とした。体幹部定位放射線治療(50Gy/5回)を行ったが、6か月後に肝内転移の出現を認めた。肝予備能不良で治療介入困難となり、HCC発症から2年後に肝不全で死亡した。【考察】10年の経過で、膵術後の二次性脂肪肝が原因と思われる肝硬変から肝細胞癌を発症した症例を経験した。今後、画像検査等の進歩により良性腫瘍や早期膵癌の手術症例が増加し膵術後の生命予後は延長すると考えられる。膵頭十二指腸切除後の長期生存に伴い肝硬変への進展が問題となる症例の増加も予想され、二次性脂肪肝を予防する治療確立が必要であると考えられる。

https://link.springer.com/article/10.1007/s12328-023-01831-9

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